虎哲の探究

単なる私立校国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

伝統・文化とは?(福井県立若狭高等学校・渡邉久暢先生の単元)

  今回扱うのは以下の記事でご紹介した渡邉久暢先生のご発表における単元の概要である。レジュメ・資料集及び分科会当日配布資料をもとに福井県立若狭高等学校第一学年で実施された単元「伝統・文化とは?」に迫りたい。

hama1046.hatenablog.com

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当然書き漏らしがあることをご承知頂いた上で参考までにご笑覧頂きたい。

 

単元の指導と評価の計画(全10時間扱い/レジュメ・資料集114頁参照)

1・2時:【各時間の目標】自分なりの「問い」を生み出す。【評価規準(評価方法)】資料や他社との対話を通して、伝統・文化について問いを3つ以上設定している。(ノートの観察)【学習活動】「動物図鑑」『食べる 増補版』のテキストを通して、伝統・文化に関する自分なりの問いを生み出す。

3・4時:【各時間の目標】反応を予想した上で、論拠を挙げて自分の意見を述べる。【評価規準(評価方法)】自分の考えに対する様々な観点から反応を予想した上で、論拠を挙げて意見を述べている。(発表の観察)【学習活動】捕鯨や女性の人権に関するテクストに基づき、自分の意見を述べる。

5~7時:【各時間の目標】自分なりの問いを生み出す。【評価規準(評価方法)】〇ルーブリック参照〇自身の追求したい問いの候補を3つ以上挙げ、その解決の構想を練っている(ノートの観察)【学習活動】伝統・文化に関する様々な論者の意見を理解して上で、今後自分が書く意見文の「問い」を検討する。

8・9時:【各時間の目標】論理の展開、情報の分量や重要度などを考えて、文章の構成や展開を工夫する。【評価規準(評価方法)】〇ルーブリック参照〇ルーブリックとは別に、生徒にも意見文の観点を設定させる。(ノートの観察)【学習活動】他者の意見も参照しながら、様々な情報を拾い上げ、整理し、可能性のある複数の仮説について検討した上で、より説得力のある証拠や論拠を用いて結論を作り上げる。

10時:【各時間の目標】自身の学習をふりかえる。【評価規準(評価方法)】〇ルーブリック参照〇ルーブリックに定めた観点以外の内容に対してもフィードバックを行う。【学習活動】他者からの評価をふまえて推敲し、意見文を完成した上でふりかえりを書く。

 

ルーブリック(形成的評価と総括的評価)

 今回の単元は形成的評価及び総括的評価で二つのルーブリックを使用している。

 

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  上の記事にもあるように「ルーブリックはチェックリストではなく「質的な基準」であり、学習者が「レベルアップするために何が必要かを具体的に記述したもの」」である。学習者がどのような力を身に付けてほしいか(規準)、そのためにどのような手立てが必要か(現在地とその上のレベルの記述)を教師がルーブリックで示し、学習者がそれを参照しつつ、学ぶようなあり方も必要かもしれない。実際のルーブリックがどうかは問題ではない。参考のために規準の方だけ示す。

【形成的評価の規準】

「問い」の設定・探究の過程と導かれた結論・ふりかえり

【総括的評価の規準】

主張とその論拠(1・2段落)・具体例(3段落)・予想される反論(4段落)・予想される反論への再反論(5段落)・表現と形式(全体)

 

分かり得る単元の詳細

2014年度入賞作品|新聞広告データアーカイブ

ここの優秀賞「動物図鑑」をもとに「自分が「食べ物」だと思うものを〇で囲もう。」という問いから単元をスタートさせる。

  教科書教材の西江雅之「「食べ物」と「伝統」」をもとに作られた単元だそうだ。使用している教科書は筑摩書房の『国語総合 改訂版』であろう。

http://www.chikumashobo.co.jp/kyoukasho/textbook/list/sogopamph_2019s.pdf

  この本をはじめとした教材群で、文化についての文章をよく読み、よく意見文を書き、よく考える実に練られた単元である。

食べる 増補新版

食べる 増補新版

 

 第1時に生徒に渡した資料(分科会当日配布資料)に示された「本単元のゴール」には「異文化理解に関する文章を読み比べる活動を通して、論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。特に自分なりに「問い」を立てて、その理解について書く力を身につける」とある。それについて渡邉先生は目標をガチガチに決め過ぎないと仰っていた。目標をガチガチに決め過ぎてしまうと学習者に合わせて軌道修正する柔軟性を失い、単元が学習者に対して上滑りしてしまう。

 1時・2時は『食べる 増補新版』にある文章を読み、読解の問い(例:「「食べられるもの」と「食べ物」何が違う?」や「西江は、「文化」をどのようなものだと考えているの?」)や問い・考えを作る問い(例:「この文章を読んで、どのような疑問がうまれた?三つは書いて!」「この文を読んで、何を考えた?書けるだけ書いて!」)に応える形で授業が進んだそうだ。教室がどのような風景だったのかは分からないが、個で考え、問いについて書いたものを教師に見せていくような個別指導的な雰囲気なのだろう。

 3・4時は「聴き手の反応を予想する」(聴き手の反論とそれに対する再反論)「論拠を示す」(「論拠」を「根拠」と「理由付け」に分け、具体例を示して述べている)ことをポイントとして挙げ、主張を構成するフォーマット(8・9時及び二学期中間テストで書く意見文の構成と同様)を与えている。4時は公開授業であり、「主張を参観者に披露し、評価を受ける」という公開授業という場を活かした活動を設定していた。これには実際授業を見学なさったはこせんさんも驚いたそう。自分の主張を0から作るのではなく、述べられた意見を読み、どの立場に近いか選んでからフォーマットに即して主張を構成するというのも良かった。学習のスパイラルを積み重ねる、そんな単元の構成が見られる。

  5時は自分なりの「問い」を生み出すために

多文化世界 (岩波新書)

多文化世界 (岩波新書)

 

「文化が違う」とは何を意味するのか? : 2001|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 の一節の読解→この考えについてどう考えるか書く→再度二つの文章を読み、疑問を書くという学習を行っている。

 これ以降は「「伝統」「文化」に関するテーマ・問いを自分なりに設定し、それに基づく論を展開」するような学習を行う。「ワードファイル」で作成するそうで、それが推敲によいそうだ。構想を練る・実際に書く時間を確保していることも良いと感じた。

 単元の最後10時に「ふりかえり」の活動を行っている。項目は

「一 自分の意見文を読み直してのふりかえり」

「二 他者の意見を読んでのふりかえり」

「三 次回に向けての抱負」

であった。

 「一 自分の意見文を読み直してのふりかえり」は「①内容面」と「②書き方面」に分けて書くことをしっかりと指定している。「二 他者の意見を読んでのふりかえり」では「他の人の意見文三人(参考にしたい人を自分で選ぶ)を選んで、一人ひとりの内容・書き方について考えたことを残」すという直接対面しない協働的ふりかえりがあり、これも「対話的な学び」であろうと思った。「三 次回に向けての抱負」では、「次回意見文を作成する際に、自分自身が「こうすべきだ」と考えることを書き残」すように指定している。振り返りにもまたこうしたバリエーションがあるということ、3つの項目が複雑に絡み合っており、それを経て学習者が学びを自分のものとすることを学んだ。

 

 だいぶ時間がかかってしまったが自分なりに良いと思う単元をまとめる経験が出来てよかった。この経験は今後自分が単元を作る上で非常に参考になるだろう。