今回はこちらでの学びをまとめたい。
この大会のための東京‐鳴門往復旅の学び以外の要素はこちら。
院生国語科教育研究会(以下院国研)のメンバーだけで鳴門教育大院生の会員のもとを訪れるのもなんか味気ないと思い、スペシャルゲストとしてご指導いただけないかと甲斐伊織先生にダメ元でお願いし、快く引き受けていただいたことで学びの場が実現した。
参加者は甲斐伊織先生、山本健大先生(以下の文章が所収された冊子をたまたま所持していたことを旅の後に気が付いた)
https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/ten_download/2017/2017047843.pdf
、高山実佐先生、鳴門教育大学に長期研修で来ている現職の小学校の先生2名、院国研メンバー4名(会員自体は全7名)、会員のご友人である学部生1名の計10名。小規模ながら非常に実りある時間となった。
今回の収穫はたくさんあるが、大きく分けて4つある。
1つ目は甲斐伊織先生がお忙しい合間を縫って作成して下さった「鳴門教育大学附属大村はま文庫訪問の手引き」である。問いを立てて訪問することの重要性を指摘し、訪問前に見るべき参考資料についても示してくださった。先生がどのように思考プロセスを経て資料にあたりを付けてどのように学習記録から実践に使える要素を引き出したかエピソードを交えて示してほしいというわがままを申し上げて、そのわがままを叶える手引きを甲斐先生に作成していただけたのは非常に有難かった。参加者のみの財産になるのは惜しいと思うほどのものである。
2つ目は甲斐先生が昨年度に実践された単元「ナガサキと向き合う」実践資料集である。「ナガサキと向き合う」は大村はま「世界の人は日本(日本人)をこのように見ている」(昭和49年度実践)と甲斐利恵子先生の「フクシマを持ち寄ろう」(平成29年度実践)を参考に、修学旅行と絡めて読書会を行うという単元になっている。実際に使用されたプリントや生徒の活動の様子が見られる写真・文字おこしがあり、甲斐伊織国語教室の息遣いが感じられる素晴らしい実践資料集である。ここまでの馬力が必要な単元を何度か挑戦してみたい。
3つ目は大村はま国語教室の空気感である。全集にあるのはあくまで大村が切り取った大村はま国語教室である。生徒の作品は載っているもののその学びが生徒たちにとってどうだったのかはあまり見えてこない。驚くべき学習記録の数や大村が単元作りに使用した書籍、研究会の資料など私のようなものにも伝わる熱気が感じられた。この熱気を感じると、再現性があるとかないとかいう批判など本当に些末で取るに足りないものだと痛感する。大村はま研究者が行おうとしているのはこの熱気を賞賛すべき過去の栄光にとどめることではなく、そこから現代の教室に生かせるものを抽出し活かすことである。その姿勢が表れた「鳴門教育大学附属大村はま文庫訪問の手引き」に導かれ、以下に所収されている昭和44年入学者の読書単元の実際について調べようとしたが、その部分に関する生徒の記述が少なく、芳しい成果は上げられなかった。
その代わりに教授に頼まれてコピーしていた生徒の学習記録に対する大村のコメントが掘り出し物でなかなか興味深かった。以下に引用する。なお、傍線は稿者による。
この抱負は大変良い着眼であると思います。ほんとうの「記録」というものになっていくでしょう。
あなたのノートは要点をかんたんに、急所を外さず正確に落ちなく書いてあり少しもむだのないのが特徴です。書いている分量としてたいへん多い人があります。そういうひとにももちろんすばらしい記録はありますが あなたのを見ると「必要にしてじゅうぶん」ということばのとおりであると思うことがあります。
字も人に見せるものを書くときとそうでない時とで区別が見えています。 あなたのは、それがたいへんはっきり見えています。いわゆるきたないところもありますが、必要な場合に、必要に応じてきちんと書ける点で5にしました。
このコメントは学習記録のあとがきに付けられたもので、学習記録の評価について言及しているものであると推察される。学習記録は年度によるが点数を付ける場合があり、大村は当該生徒の自己採点(95点)に対し、100点満点という評価を与えその評価の根拠を明示しているのだ。
ちなみに評価規準・配点・生徒の自己採点・大村の評価は以下の通り。
1 提出 50 50 50
2 整理 10 10 10
3 内容 10 8 10
4 表記 5 5 5
5 字の書き方 5 4 5 (※ここが傍線の記述を引き出したのだと思われる)
6 編集・目次 5 4 5
7 あとがき 5 4 5
8 とびら・奥付 5 5 5
9 とじかた 5 5 5
なお、3・6・7の評価の上方修正については始めの段落辺りで説明されていることと符合する。書き込みに大村の考えが色濃く出ているといえよう。
4つ目は参加者との学びの共有である。私個人での学びだと一面的な理解に止まってしまう。10人がそれぞれどのような学びをしたのかについて話す時間を確保したのは大きかった。
甲斐先生から現場に出てから再び大村はま文庫に訪れることに価値があるという話があった。どんな職場に行くことになっても、時間を作って知りたい問いを今回の訪問より明確にして再度訪問したい。