虎哲の探究

単なる私立校国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

【記録】修士論文構想発表レジュメ

 昨日の構想発表のレジュメをそのまま記録として載せておく。ただし、敬称略を敬称有りに変える。

 

中等教育国語科における「探究」についての研究

  

序、何故「探究」か?

 

・今日的な要請

 

 平成30年度版高等学校学習指導要領により「総合的な探究の時間」「古典探究」「日本史探究」など探究を冠した科目が新設された。このことは今後の中等教育において探究が一層重視されることの一つの証左と言える。

 「深い学びの視点」について「中学校学習指導要領解説 総則編」(78頁)では以下のように示されている。

 

 習得・活用・探究という学びの過程の中で,各教科等の特質に応じた「見方・考

え方」を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査

して考えを形成したり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学

び」が実現できているかという視点。

 

 探究を学びの過程に位置付けているのは現行の学習指導要領と同様である。また,横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校編(2008)『習得・活用・探究の授業をつくる―PISA型「読解力」を核としたカリキュラム・マネジメント―』において既に以下のような指摘がなされている。(※1)

 

 新しい学習指導要領では各教科においては習得と活用が中心となり,総合的な学

習の時間で探究的な学習を行うことが求められているように思われるが,国語科に

おいては探究的な学習は大事である。その際に課題の設定について工夫したい。生

徒一人一人が自分の課題という意識を持ち,それぞれの課題に応じた解決方法をと

ることができるものを工夫したい。

 

 探究を総合的な学習の時間だけでなく,国語科でも行っていく必要があるという指摘は探究の価値が強調され,今後中等教育の現場において影響力を持っていく中で重要な示唆を与えるものである。しかし,現状の中等教育国語科において習得・活用に比べ,探究は理論・実践の整理が行われているとは言い難い。

教育課程部会国語ワーキンググループ(2016)は現行の高等学校国語科における課題として以下の4つを挙げている。(※2)

 

課題1:教科書教材等への依存度が高く、主体的な言語活動が軽視され、依然と

   して講義調の伝達型授業が行われる傾向

課題2:話し合いや論述など「話すこと・聞くこと」「書くこと」における学習が

低調

課題3:高校生の思考力・判断力・表現力の一部に課題

課題4:メディアリテラシーや課題探究に関する言語活動等があまり行われてい

ない

 

課題1・2が平成21年度の調査,課題3・4が平成24年の調査によって導き出されたものであるため,現状を正確に反映しているとは言い難いが,一方でこうした傾向が全くないとも言えない。中等教育国語科における「探究」の研究は上記のような平成30年度版高等学校国語科学習指導要領の課題意識に応える国語科学習指導の一助と成り得る。

 

・本研究における「探究」とは何か

 

 本研究の対象を学習指導要領における探究と区別し,「探究」と表記する。探究のプロセス(※3)を通したスパイラルな学びを想定するという点では共通する。主な違いは教科横断性の有無である。

 成田(2016)は安彦(2014)が提唱した「習得」「活用Ⅰ」「活用Ⅱ」「探究」を整理して示した。その中の「活用Ⅱ」が現段階における本研究の「探究」の定義と近い。相違が明確になるよう「活用Ⅰ」と「探究」と合わせて以下に引用する。(※4)傍線は稿者。

 

【活用Ⅰ】

・教科学習で習得した知識・技能のうち、活用させた方がよいものを、教師が選ん

で活用させる。

・教師主導でよい。

・その知識・技能な活用の文脈は、子どもにはすぐわかるような開けた既存の文脈

で活用させる。

・子ども全員に、共通に経験させ、達成させる。

【活用Ⅱ】

教科学習で習得した知識・技能を活用する。

・教師と子どもとが、半々に関わるもの(半誘導的なもの)

・その活用の基礎にある文脈自体も子どもにはまったく新しいもの個々の子どもに

よって、達成度は異なってよいもの

【探究】

・どんな知識・技能を活用するか、本人にしか分からない。

・子ども自身が決めて活用するもの。

・子どもも、新しい文脈でその知識・技能を活用する。

・個々の子どもによって、何を活用しているかは別々でよい。

 

先行研究について

 

酒井雅子(2017)『クリティカル・シンキング教育―探究型の思考力と態度を育む―』

 本書は哲学領域のクリティカル・シンキング研究者であるリチャード・ポール(Richard William Paul)の多元論理の探究理論に着目し,その理論に基づく探究教育の構造と教科学習(ランゲージ・アーツ)を検討している。それによって主に文学作品での探究やベースとなる「哲学的」討論の有用性とそれを日本に導入する際の課題を明示した。(※5)

八田幸恵(2015)『教室における読みのカリキュラム設計』

 本書は二部構成になっている。第Ⅰ部はアメリカにおける読みの教育目標論の展開を特に「読みの理解」の指導過程における「発問」・「問い」のあり方から検討し,第Ⅱ部は福井県公立高校教諭渡邉久暢先生との共同研究(高校国語科現代文「こころ」を教材とした高次の「読みの理解」を保障するカリキュラム設計)の成果を報告している。(※6)

  探究を明示した国語教育実践としては,灘中学・高等学校の井上志音先生(※7)による国際バカロレアTOK(Theory Of Knowledge「知の理論」)の趣旨を踏まえた国語科探究学習の実践を始めとして,主として従来から探究に取り組んできた国立大学附属校などで様々に試みられている。以降はそれらの収集・分析に注力したい。

 

研究方法

 

主として理論・実践・教科書の三つの視点から中等教育国語科における「探究」を検討する。

理論:探究学習(※8)自体についてとそれらと国語科との接続について

実践:過去の国語科実践を「探究」の観点で意味づけることと現在行われている実践の

体系化

教科書:過去・現在の国語科教科書の「探究」的要素の検討(主に問いや探究のプロセスに関わるもの)(※9)

 

現段階における研究仮説

 

・教科横断ではない国語科に根差した「探究」課題の検討

例えば,現行の「高等学校学習指導要領解説 国語編」76頁では,古典Bの言語活動

例「エ 古典を読んで関心を持った事柄などについて課題を設定し,様々な資料を調

べ,その成果を発表したり,文章にまとめたりすること」を「エ 課題を探究し,成果

を文章にまとめたりする言語活動」としている。対象を例示していないが言葉の変遷や

当時の人々の生活など生徒の関心に応じた課題が考えられる。

・教科横断や生涯にわたる探究のための探究のプロセスの経験,探究の方法の習得・活用を意識した「探究」

 例えば,広島大学附属高等学校では「国語総合現代文編」のうち一単位分35時間で

「説明的文章」を扱いながら「高校3年時にまとめる課題研究論文を書く力の基礎を身

に付けさせる」ことをねらいとした「課題研究基礎」が実施されていた。(※10)

 

 

※1 横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校編(2008)『習得・活用・探究の授業をつくる―PISA型「読解力」を核としたカリキュラム・マネジメント―』三省堂38頁。

 

 

なお,引用文の「新しい学習指導要領」は現行の学習指導要領のことを指す。同著12頁から21頁において高木展郎は「習得・活用・探究」の示された経緯・機能と内容について書かれている。

※2 教育課程部会国語ワーキンググループ(2016)「資料6:高等学校国語科の科目編成について課題は8つ挙げられているが,本研究に関わるもののみを今回は扱った。

※3 文部科学省(2008)『中学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』(16頁)

※4 成田秀夫(2016)「高校での探究的な学習の展開」溝上慎一・成田秀夫編『アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習』東信堂(51頁)

 

アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習 (アクティブラーニング・シリーズ)

アクティブラーニングとしてのPBLと探究的な学習 (アクティブラーニング・シリーズ)

 

 

整理元は安彦忠彦(2014)『「コンピテンシー・ベース」を超える授業づくり(教育の羅針盤)』図書文化社

 

「コンピテンシー・ベース」を超える授業づくり (教育の羅針盤)

「コンピテンシー・ベース」を超える授業づくり (教育の羅針盤)

 

 

である。

※5 酒井雅子(2017)『クリティカル・シンキング教育―探究型の思考力と態度を育む―』早稲田大学出版部

 

 

258頁の図7-1「『哲学的』対話討論からみた探究教育の構造」が参考になる。

※6 八田幸恵(2015)『教室における読みのカリキュラム設計』日本標準

 

教室における読みのカリキュラム設計

教室における読みのカリキュラム設計

 

 

 文学を対象とした「探究」は87頁・120頁の単元の概要及び第4章・第5章に示された単元の具体が参考になる。

※7 井上先生のの実践は日本私学教育研究所紀要53号,同研究所調査資料第254号に掲載されている。インターネット上での公開はまだ行われていない。(2018年12月14日確認)

※8 国士舘大学教授桑田てるみの研究を参照されたい。桑田てるみ(2016)『思考を深める探究学習 アクティブ・ラーニングの視点で活用する学校図書館

 

思考を深める探究学習: アクティブ・ラーニングの視点で活用する学校図書館

思考を深める探究学習: アクティブ・ラーニングの視点で活用する学校図書館

 

 

を始めとして,桑田の研究成果を本研究に組み込む予定である。

※9 稿者の研究課題『高等学校国語科教科用図書における「探究」に関する基礎的研究』が教科書研究センターによる平成30年度『大学院生の教科書研究論文助成』の対象となった。当該研究の成果を修士論文の一部として組み込む予定である。2020年7月に教科書研究センターが刊行する論文集に掲載予定である。

※10西原利典(2018)「「意見文を書く」(高1)―学校設定科目「課題研究基礎」の一環として」広島大学附属中・高等学校『国語科研究紀要』第49号