虎哲の探究

単なる私立校国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

【書評】紅野謙介『国語教育の危機―大学入学共通テストと新学習指導要領』

 

でおなじみの(笑)

である。

hama1046.hatenablog.com

『情報生産者になる』読了から6日。ちくま新書熱冷めやらず、『国語教育の危機―大学入学共通テストと新学習指導要領』も読み終えた。

発売前から国語教育界をざわつかせていた『国語教育の危機―大学入学共通テストと新学習指導要領』。タイトルのインパクトもあって購入したが、予想を裏切らない内容を備えている。

 全体の概説は上のツイートに詳しい。

 大学入学共通テストに関しては、紅野氏の分析通り育成すべきあるいは評価したい学力と乖離したやや残念な出来栄えであると思ったが、今までに無いものを作り上げねばならない中で改革のインパクトを現場に与えたことには価値があると考えている。

 実際、担当している高3の生徒に見せてもらった直近のベネッセ駿台マークの第3問(古文)は二つの歌論が本文として示されたものであった。内容こそ本文から根拠を拾えば解ける程度であったが、生徒からすれば混乱は計り知れない。現高1を担当している先生は現行の教科書を駆使し、どのような授業を組み立てるかが問われている。手元に平成24年度検定の教科書しかないので、現在国語総合でどのような実践が展開し得るかについては憶測の域を出ないためここでは言及しない。ただ、先に大学入学共通テストを「今までに無いもの」と述べたが、実際には公立高校や国立大学の入試問題に創意工夫を凝らした面白い問題が多々あるので、そういったものから着想を得て授業を組み立てるのも意義があるのではないか。

 

 

全国大学入試問題正解 特別編集 思考力問題の研究

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高くてとても手が出せないが、こういったものも見てみたい。

  新学習指導要領に関しては当然危惧するところもあるが、文部科学省が教育を変えたいと考えた末に作り上げたものだからその意思を汲み取って、今から新学習指導要領下の実践について考えていきたいと考えている。新しい時代の教育の成否は指導要領だけによるのではなく、現場の教師がどのような実践を作り上げるかや研究者がいかに現場の教師とともに歩んでいけるかによるのだ。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/068/siryo/__icsFiles/afieldfile/2016/04/01/1369033-6.pdf

ここで示されていることは的外れなこととは思えない。この新学習指導要領を良いものにしていくために必要なのは不必要な業務の縮小等により実現する時間の創出である。IB教育のように教師の創意工夫が存分に発揮される実践が各地で行われるためには教師の心身のゆとりを確保することが急務である。とあるIB校の先生曰く一年の半分は勤務校に行っていないそうである。高大接続改革で見せているよなダイナミックな働きかけを是非教師の働き方改革にも向けていただきたい。

 さて弱小ブログの届かない願いはさておき、『国語教育の危機―大学入学共通テストと新学習指導要領』の魅力に話を戻そう。個人的にこの本の本当の魅力が見えてくるのは258ページからなのではないかと考えている。無論、それ以前に展開されていた実際の文書に対する建設的な批判は必読である。忙しくてプレテストや新学習指導要領を見られていない人にとってはこれほど分かりやすい導入はないと思われる。世田谷区の教科「日本語」の事例から冒険的な改革の持つ危険を示している部分には、さながら『モアイは語る―地球の未来』においてイースター島の事例から地球の瀕している危機を示すような相似を示すような論展開の面白さと説得力があった。

 

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

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話題のこの本についての言及もあり。どのような点で賛否両論を巻き起こしているのか知るべく今年中には読まねば…。

 国語教育における論理的思考力や野矢茂樹氏の著作についても言及している。野矢氏の文章は国語の教科書にも登場する。高等学校の教科書に掲載されている文章はやや難解だった覚えがあるが、中学校の教科書に載っていた文章は非常に良かった。東京書籍『新編 新しい国語2』に所収されている「哲学的思考のすすめ」である。「恥ずかしい」という感情について哲学的に探究した説明文で、内容も分かりやすく読者たる中学2年生が他の感情について探究したくなるであろう出色の文章である。筑波大学附属中学校研究協議会で拝見した公開授業でその存在を知り、自分ならどう実践するか楽しみになった教材である。

 以降からあとがきにかけては、著者の「国語」への思いや国語教育に携わる者たちが

 

「歴史的改革を正しい道筋へ戻す」ことへの期待が述べられている。

 

 新学習指導要領の改訂は実施までの期間はさほど残されていない。この大きな波に乗るか飲まれるかはあくまで現場の教師次第である。