虎哲の探究

一介の公立中高国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

吉野弘「冷蔵庫に」の紹介

  昨日で授業は一区切り。慣れないオンライン授業で苦労もあるだろうと思い、ひたすら楽しくやっていこうというコンセプトのもと小6の授業は「詩を読む・紹介する・書く」という単元で今学期を締めた。

 ある児童は吉野弘「樹」を紹介していた。育ちが良い。

 そんなわけで積読だったこの本を引っ張り出し、パラパラめくってお気に入りの詩を見つけた。

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

吉野弘詩集 (ハルキ文庫)

  • 作者:吉野 弘
  • 発売日: 1999/04/01
  • メディア: 文庫
 

冷蔵庫に

 

冷蔵庫

お前、唸っていたな

生きものみたいに

深夜

 

歌っていたのかもしれないが

それにしては陰気な歌だった

冷蔵庫

生きものの真似をしていたのか、お前

 

冷蔵庫

間違っても

生きものの感情なんて身につけてはいけないよ

機械以外のものになってはいけない

 

冷蔵庫

設計された働き以上のことをしてはいけない

休み休み、働いていればいい

如何にあるべきかなんて苦悶するんじゃないよ

 

ロボットに感情を持たせようなどと

人間が考え始めるご時世だが

そんな馬鹿な夢想の相手をしてはいけない

生きものになれば確実につらいことがふえる

 

人間は何十万年もドタバタ見苦しく生きてきたのに

まだ自分に愛想を尽かすことも知らない

そういう狂った生きものなんだから

人間を見習ってはいけない

 

ただ、設計されただけの働きを

休み休み、果たしていればいい

知らずに与えられた機械の幸福というものを

お前は破らぬほうがいい

 

わかったな