虎哲の探究

一介の公立中高国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

【授業見学記】筑波大学附属駒場中・高 澤田英輔先生の授業

 表題の通り澤田英輔先生の授業を見学させて頂いた。そこで得た気付きを私のために記録し、ついでに読者にも共有したい。

 

高2ライティングワークショップ問題づくり編

 

以下、感想のツイート

作問という仕掛けで文章を精読するというあすこま先生のねらいのもとで練られた面白い授業だったなぁ。生徒もかなりパワフルで自分の読みをグループで確認し(時にバトルを繰り広げ)ながら問題を作っていた。先生がこのタイプの授業が自分のやっている唯一の受験指導だと仰っていたのも興味深かった。

ご丁寧に返信も下さった。

 

  あまりに強すぎる『イン・ザ・ミドル』インパクトの弊害。私も昨年度の教育研究会でRWの授業を見学したが、当然ながらそれとはまた違った風景であった。

イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室

イン・ザ・ミドル ナンシー・アトウェルの教室

 

 @askoma こちらこそ有難うございました。RW/WWの授業も拝見したかったのですが、今回の問題作成の授業を拝見してさらに挑戦したい実践が増え、それを行う上で重要なことを学ぶことが出来たので非常に有意義なものとなりました。明後日も宜しくお願い致します。

 

 見学した授業の流れを大まかに示す。

 澤田先生はチャイムの後に号令をかけて出欠を取り、大福帳を配布し、単元と本時の流れを丁寧に確認してからミニ・レッスンを行った。

 今日のミニ・レッスンは「選択問題づくりの方法」で、予め問題づくりに際して、「各グループで必ず一問は「選択肢問題」を作」るという制限を設けており」このレッスンの内容を活用した選択肢問題づくりを各グループが経験するようになっている。

 ミニ・レッスンは澤田先生が経験知として持っている「選択問題づくりのプロセスの例」と「誤答の基本的なパターン」との二つの柱で構成されている。

 頂いたミニ・レッスンのプリントから「選択問題づくりのプロセスの例」を以下に示す。

 

①まずは「正解」の選択肢を作成する。

・この点までは論述答案を作るのと同じである。

②その「正解」の選択肢を参考に、誤答の選択肢を作成する。

・「誤答の基本的なパターン」を参考にしよう。

③各選択肢の文章の構造や長さに、極端な違いが出ないように整える

・この時点で語彙力が必要。辞書や類語辞典で言葉を調べながら、より良い選択肢を作る

④時間をおいてから、実際に解いて確認する

・ちょっと時間をおいて、「他人の目」になることが大事。

⑤設問文に「最も適切なものを一つ選べ」という趣旨があるか忘れずに。

・「最も」の一言を忘れないことは意外と大事。

 

  次いで「誤答の基本的なパターン」を示す。これは一緒に書いている詳細は省く。

 

①正解の必要条件が欠けている

②対比のキーワードや人物が本文と食い違っている

③プラス評価とマイナス評価の入れ替え

④勝手な強調と限定

⑤過度な一般化

⑥因果関係や前後関係の逆転・でっちあげ

⑦事実判断(存在)と価値判断(当為)のすり替え

⑧設問に答えていない

 

 国語の試験の選択肢問題を解いていく中で経験的に身に付けていくこうした誤答のパターンをラベリングして示すというのは面白い。それを模試の解説などではなく、問題づくりの中で取り込ませる。

 ミニ・レッスン後はグループで生徒に問題づくりをさせ、澤田先生はグループを回ってカンファランスを行っていった。30分以上たっぷりと時間をとっていた。澤田先生はカンファランスで

①問いについて聞く・アドバイス・提案

②ペアとペアとをつなぐ

の主に二つのことを行っていた。カンファランスはグループの生徒と同じ目線で「選択問題はみんなで作りな」「提案」「それを聞くためにどこに傍線を引くかだよね」といった声かけをしていた。

 グループは①大澤真幸「〈不気味なもの〉の政治学」(論説1)②古井由吉「祈祷師たち」(論説2)③植田三四二「季節はわれを」(随筆)④川端康成ざくろ」(小説)の課題文選択を基に分けられ、3人から4人グループになるよう分けられている。そのグループで人数分問題を作るわけだ。「ざくろ」は生徒にとって4問以上作るのは難しいかもと3人グループになるよう作ったそう。同じクラスに同じ課題文で問題づくりを行っているグループが存在するため、そのグループ同士をつなげようという声かけも見られた。

 作った問題は単元終わりにその課題文で問題を作っていないグループと交換して解き合い、採点するということになっているため自ずと問題づくりに集中し、それを通して課題文を読み込むわけである。

 最後に大福帳と問題を回収して終了。

 授業後はお話をする時間も取ってくださった。授業についてだけでなく、国立大学附属及び母校に勤める楽しさと大変さについてもお話しして下さった。

 

中2詩を語る言葉を持つ

 

上が澤田先生による私が拝見した単元の概要について触れたツイートである。

 私が授業を拝見する前に、第1時にジャン・コクトー堀口大學訳)「耳」で「類似するものを並べることで、読み手の連想を誘い、世界をつなげる」「類似」を、第2時に安西冬衛「春」で「対比的なもの(内容・音・見た目・・・)を並べることで、飛躍や対立を作り出す」「対比」を生徒は詩を「読む時の着眼点」として学んでいる。

 今回拝見したのは第3時で金子みすゞ「お魚」を扱い、「視点」を「着眼点」として教える授業であった。

iso-labo.com

    先の高2の授業同様、見学した授業の流れを大まかに示す。

 まずは新聞に掲載された生徒の投書の紹介があった。前の単元が投書を書くものだったのだろうと推察される。(確認すればよかった)

 次に3学期の評価について説明なさっていた。新聞の読者投稿と期末考査で評価すとのことだった。

 新聞の読者投稿は書く文種が異なる場合があるため基本提出点で澤田先生が特に良いと思った内容を書いた者、実際に投書して掲載された物にはボーナス点、期末考査は詩を主に出題し、対象は授業中に扱った詩及び授業では扱っていない詩、ポイントは「着眼点を使って、自分なりに、豊かに詩がどのような世界を創っているか語れるかどうか」だそう。「授業では扱っていない詩」とは便覧に載っているものを指し、こうしたきっかけで多くの詩に出会って欲しいという澤田先生の願いが隠されたもので(これは聞いて確認した)特に良いと感じた。

 その後生徒にとってなじみある金子みすゞの詩「私と小鳥と鈴と」を朗読し、その後「お魚」の最後から2行目を穴埋めを3分で行い(途中で「お魚」が七五調であることに触れる)、3分で他の生徒作品を教室を回る形で見合う。

 その後澤田先生に指名された生徒が良いと思ったほかの生徒の穴埋めを紹介し、なぜ良いと思ったかを語った後、澤田先生がその穴埋めの良さを引き出す解説を行うことを3回ほど行った後、実際金子みすゞがどのように書いたかをかなり明確に生徒の考え(基本的に詩の流れから食べられるということには多くの生徒が気づいたが一般論で「かうして」「私に」には及ばない)よりも質が高いことを明らかにしたうえで紹介する。生徒は既習の「類似」「対比」を用いて他の生徒の穴埋めの解説を試みるが、金子みすゞ「お魚」の最後から2行目「かうして私に食べられる。」で目の前に魚があり語り手がそれを食べている状況だと知り、さぞ強烈なインパクトを感じたことだろう。

 金子みすゞが「厳しい詩・迫力のある詩」を書くと仰ったうえで、便覧にある「積もった雪」とその解説を紹介し、その解説とは異なる「存在するだけで加害する関係」を表現しているのではないかという澤田先生の解釈を示す。

 その後「詩の「良さ」を語る言葉(着眼点)の確認を行い、「語り手は今、どこにいるのか?どう見ているのか?」という「視点」をその着眼点に新たに加えて授業を終える。

 授業後は穴埋めの答えを示す方が良いのか、また答えに権威性を持たせて良いかや、生徒作品を匿名・顕名で示すことそれぞれの功罪、詩の創作、澤田先生が詩の創作・研究を行っていたこと、好きな詩についてなど様々な話で盛り上がった。個々での話は実際にその場にいた人のみの財産としたい。唯一共有するのは以下。

 

あすこま先生と授業後にお話してた時にとても印象的だったのが「でも変わるかもしれないなー」とあすこま先生が頻繁に仰ってたこと。主張を持つことは大事だけど、そこに固執してしまう限り成長はないだろう。 「死守せよ、されど軽やかに離せ。」

 

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昨日のあすこま先生の授業で詩を読んでみたくなって手元にあった詩集で季節のところを読んでみた。詩に引用をしているのが面白かった。「秋景」「氷よ 氷」「元日の夕日に」が今の私の感性でのお気に入り。 

 授業見学して詩を読みたくなってしまう単純な私であった。

 2021/02/28追記:この見学後まもなく、澤田先生は母校筑波大学附属駒場中高を退職し、軽井沢風越学園へ活躍の場を移された。

澤田 英輔 | スタッフ | 軽井沢風越学園 (kazakoshi.ed.jp)

近年の挑戦や思索は澤田先生ご自身で運営されている以下のブログを参考にされたい。

あすこまっ! へようこそ | あすこまっ! (askoma.info)