上の記事の続編である。順番の前後に関してはご理解頂ければと。
午前中は第四会場、主に書くことの研究の分科会に参加した。多様な切り口の研究があるんだなと考えさせられた。
「ありのまま」に書くことの今日的意義(北海道教育大学大学院・院生 金田唯人さん)
ちらと聞こえてきた話に寄れば、この方もM1だそう。来年二回発表すればよいかなと考えていた自分の甘さを恥じつつ、発表内容の完成度に恐れ入った。
彼の問題意識は「自己学習能力」に不可欠な「自己評価能力」を「書くこと」においてどのように育成するかということだった。そこで「言語化能力」「ありのまま」に書くことを考察したというのが発表の趣旨であった。
「自己学習能力」と「自己評価能力」との関係については
を引用していた。「自己評価能力」はいわば自分を言語化できることであり、その機会や手段として「ありのまま」に書くことが生かされるのだろう。生活綴方の先行研究から「ありのまま」という概念を図式化し、浜本純逸の言う「言語化能力」の育成に資するものだと考察していた。
彼自身が高等学校の教員になるとのことだったので、中等教育段階でどのように「ありのまま」に書くことを促し、その活動を「自己評価能力」につなげるかについても研究して頂きたいと思った。このことを引き出せたのは私の質問に対する彼の真摯な対応によるものである。研究発表に優劣はないのは百も承知だが、来年の誕生日辺りに彼に負けぬ発表をしたい。
読書感想文の書き方指導―論理的表現力指導の一環として―(東京都台東区立東泉小学校 西山悦子先生)
夏休み課題の定番、読書感想文の問題点を取り上げ、指導法と教材の提案、書き方指導の実際と評価を示したものだった。型をしっかりと与え、児童全員が書くことのできることを指導という意味でただ書かせる指導より価値がある。
そもそもコンクールは読書指導を意図したものだが、教師は作文指導と捉えているという乖離を指摘するフロアの意見もあったが、全員に書く力をつけるということに力点を置いていると強調していた。
とは言え、書かせる意義として同じ文章を読んでも感想が異なることを知るや友達の書いた文章を基にした新たな読書を生む可能性についても西山先生は認めており、力点の差こそあれ読書感想文は読書指導と作文指導どちらかと言い切ることは難しい。課題に文学的文章の読み方指導を挙げており、型を与えればすべて解決という単純な問題でないことが伺える。読みの深まりを生む書くことについての研究も見てみたい。
文章構成に着目した論理的文章の書き方指導―小学校から大学までの小論文を見通して―(新島学園短期大学 増田泉先生)
先行研究の検討から小論文と文章構成の定義を行い、それを活かした指導の実際を示し、成果と課題を挙げるという内容だった。
参考文献にある木下是男・井上尚美・鶴田誠司諸先生方の本は読まなきゃなと思いつつ手が伸びていない。
ベストセラーを未だに積読している男。渡辺哲司先生によればパラグラフ・ライティングを日本で初めて持ち込んだのは木下先生らしい。今回の発表で扱われていた木下先生の『レポートの組み立て方』も読んでいきたい。
井上尚美先生は現在主たる先行研究と思われる酒井雅子先生がお世話になった先生ということもあり、特に論理的思考についての著作は見ていかなければと。
思考力育成への方略―メタ認知・自己学習・言語論理 (21世紀型授業づくり)
- 作者: 井上尚美
- 出版社/メーカー: 明治図書出版
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
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これの基になる本が大学図書館にあり、積読にしている。目次を見てもあぁ読みたいとなるが、今は
念願の #イン・ザ・ミドル中
— はまてん (@Hamaten61) 2018年11月1日
である。
鶴田先生には国語と総合について言及する研究があり、学ぶべきところが多い。修士課程の試験後読んでおけと言われたのに未だに宿題である。
本題に戻る。増田先生は「一段落一事項」「はじめ(全体の概略)・なか1(具体例1)・なか2(具体例2)・まとめ(考察)・むすび(結論)」の構成、文字数の規定で小学校及び勤務校の大学生に書かせ一定の成果を上げた。
研究の成果として文章構成への意識が文章の主張と根拠を明確にして論じようという意識につながったことを挙げられていたのが興味深いと思った。中等教育段階の指導についてやより抽象度の高い課題の小論文にどう対応するかへ研究が進むことを期待したい。
国語科クリティカル・ライティング指導の研究(1)―高等学校「書くこと」の指導の現状と課題―(三重県立飯野高等学校 澤口哲弥先生)
まず「国語科クリティカル・ライティング」とは、批判的教育学を母体としたクリティカル・リテラシーの理論を参照した「ことばの社会的背景やその意味を捉えなおす方略」である「国語科クリティカル・リテラシー」という澤口先生が提唱する理論的土台とした「書くこと」のことであり、将来的に理論化することを目指すそうだ。
参考文献によれば、澤口先生は広島大学大学院教育学研究科で「国語科クリティカル・リーディングの研究」という博士論文を書き上げたそうだ。今後は「国語科クリティカル・ライティング」の理論化に向け研究を進めるのだろう。
澤口先生は書くことの現状と課題を探るべく、現行学習指導要領下の「全国大学国語教育学会」の自由発表や『国語科教育』の研究・実践論文、日本国語教育学会『月刊国語教育研究』、日本教職員組合の教育研究全国集会のリポートを「書くこと」の4つの指導事項(「題材の設定、情報の収集、内容の検討」・「構成の検討」・「考えの形成、記述」・「推敲・共有」)と「社会的実践に導く指導」の5つの指導累計で分析した。
調査・分析の結果、課題として澤口先生は「①クリティカルに世界を捉えて書くという指導理論・実践が少ない」・「②書く前段階の意識付けや情報収集・吟味の指導理論・方略が確立していない」「③推敲することに関する指導理論・方略が確立していない」ことを挙げた。次回以降の発表でどのようにこれらの課題を解消する術を示すかに注目したい。
質疑において中等教育段階で実践されている「卒業論文」の内容・形式の検討が「書くこと」をより「社会的実践に導く指導」にする上で役立つのではということをお伝えした。必要な研究ではあると思うがとにかく面倒なので取り合ってはくれないだろう。ここはいずれ自分でやろうと思う。
中・高等学校における論理的表現力を育成する教材開発(青山学院大学 長谷川祥子先生)
長谷川先生は論理的表現力を育成する、論理的文章を書くための教材開発を目指している。そのために中高の教科書分析や小中高校生の作品の考察、これまでのワークの検討、それらを踏まえた教材案の作成を行っていた。
今後の課題として、示した教材案を実際に使用させることで成果と課題を明らかにし修正することを挙げていた。
これまでのワークの検討のところになかった樋口祐一先生が問題作成を行った「CriticalThinking」(学研アソシエ)を質疑において紹介したが、主旨がうまく伝えわらなったのか「教科書に文学はいらないと個人的に思っている…」という話をされてしまった。
参考文献にある
は読んでみたいなと。
思考ツールを活用した大学生の小論文指導(2)―文章作成力の向上を目的としたピア・ラーニング―(安田女子大学 学習支援センター 山田貴子先生)
正課外の小論文指導を思考ツールやピア・ラーニングを導入して行った実践報告及び効果の検証が主たる内容だった。
大学の初年度教育は初等中等国語科教育の内容が必ずしも踏まえられていないことや学生の困り感(何を書けばよいかわからない・どうやって書けばよいかわからないなどアンケートの結果)から初等中等国語科教育で学んだ知識が技能として定着していないことを大学で行われる文章作成支援の課題として挙げている。大学の初年次教育のニーズが高まる中でこうした実践は非常に価値がある。
中等教育の国語科教員になるものとしては書くことを技能として定着させることも見越した指導をしていかなければと思わされた。
書く指導が充実しない理由として、指導の大変さや添削量の多さがあるだろう。ピア・ラーニングによる指導が確立され、中等教育段階で実践されることを期待したい。(頑張ります…。)
昼休みの院生・若手研究者交流会は非常に充実していた。
全国大学国語教育学会・院生若手交流企画、約30名の方においでいただきました。各テーブルでのディスカッションも盛り上がっているようで、うれしい。
— Kimi Ishida (@kimi_lab) 2018年10月27日
ぜひこの企画、続けていきたいですね(^_^)v #jtsj
本当に素晴らしい企画。佐渡島先生のご指導を受けている早稲田のドクターにいる方とお知り合いになれました。向こうの方からお声かけ頂き、書くことと考えることとの関連についてお話しました。引用について研究なさっているそうで博士論文がレポジトリに出たら是非読みたいなと。今後共同研究など協力出来るようになれる関係が築ければなおよいです。
院生・若手交流企画に参加。良い企画だと思います。かんめらさんとお話しできたのが最大の収穫。#jtsj
— Toru Tatta (@toru_tatta) 2018年10月27日
竜田徹先生と少しだけお話ししました。シュッとした聡明そうな方。次回認知していただけるよう頑張ろうかな。
全国大学国語教育学会1日目終了。
— なべしょー。 (@takota0104) 2018年10月27日
午前の自由研究発表に始まり、昼の院生・若手交流会、午後のシンポジウム、その後の懇親会、全て充実していました。特に昼の院生・若手交流会で他大学の院生と知り合えたし、懇親会では信州大の藤森先生に諸々の質問と、「言語文化」についてお話しさせてもらって最高
私のゼミは頑張らないがモットーなので、無理せず楽せず、自分を見つめ直す場としてツイートしていきます。
— ゆきじ (@inaduki00) 2018年10月28日
とりあえずは研究分野について、研究者の名前を踏まえて語れるようにしたい。
院生とも知り合い、テーブルに着くやいなや「もしやあなたがはまてんさん?」という愉快な事態になりました。呑みの場で院生と教育や研究について語り合う日が来るなんて…。群馬の地で再会を誓う。
こちらこそ、ご参加いただき、ありがとうございました!
— Kimi Ishida (@kimi_lab) 2018年10月27日
次回はぜひ企画運営側(実行委員会)としての参加も検討していただけるとうれしいです!(広報)https://t.co/lVMbejGPy4
発表者でもよいなら是非お力添えしたい。
教科書会社の方の強力なリーダーシップのもと(やはり問題意識がすごい。発言量も多めでした。)それぞれの研究内容、文法の意義、古典学習、デジタル教科書についてそれぞれの考えや知見を共有しました。議論の内容は参加者のみの秘密ということで。次回開催があれば共に議論いたしましょう。