虎哲の探究

一介の公立中高国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

全国漢文教育学会教育講座3日目

こんなわけで更新を怠りました。継続の難しさを痛感。

 

hama1046.hatenablog.com

 『三国志』と高校漢文(渡邉義浩氏)

 恥ずかしながら私は『三国志』及び『三国志演義』についてほとんど知らない。そんな私にとって渡邉氏の講義が文献紹介から始まったことは大変ありがたかった。

 

三国志―演義から正史、そして史実へ (中公新書)

三国志―演義から正史、そして史実へ (中公新書)

 

 渡邉氏が入門書として勧めていたのがこの本。「『三国志演義』と『三国志』の違いを説明する中から、『三国志演義』にも民の心情が現れ、『三国志』にも偏向があることを知る。そして、『三国志』の偏向を読み解いて史実に向かう方法を示す。」と自著の優位性を説明する。誰かによって書かれた時点で100%史実に基づくということは有り得ないこと、歴史と物語との関係を見ることにこの本は役立つのではないだろうか。こうした視点でこの本及び『三国志』『三国志演義』について学びたい。

 

三国志―漢文講読テキスト

三国志―漢文講読テキスト

 

 陳寿三国志』本文より名場面を集めたのがこの本。大学のテキストのため、後半から書き下し文や訳が欠けているそうであるが、渡邉氏(y-wata@waseda.jp)に連絡すれば書き下し文や訳の載った解答PDFを下さるそうである。名門私立中高によっては一つの古典作品を徹底的にやるという学び方がある。(現状は不明だが、慶應義塾中3『平家物語明治学院など)私個人としては多様なテクストとの出会いを優先したいので同意しかねる学び方だが、そうした学びを行う際の教材として有効ではないだろうか。

 

三国志事典

三国志事典

 

 渡邉氏が学校図書館に置いて欲しいと勧める一冊。人物・名場面・思想・文学・邪馬台国などについて渡邉氏一人で書き上げたそうである。かなり売れているそうで『三国志演義事典』を準備中だそうである。

 

《十巻完結版》三国志1-10巻(マーケットプレイスセット) (新潮文庫)

《十巻完結版》三国志1-10巻(マーケットプレイスセット) (新潮文庫)

 

 高2まで理系だった渡邉氏を『三国志』研究の方へ導いたという吉川英治三国志』。そんな『三国志』に渡邉氏が語句の注や明らかな誤りを正したのがこの新潮社版『三国志』である。

他多数紹介いただいたが、私が興味を持ったの一部はこの辺り。個人的に出版の背景までお話しいただけたのが有難かった。

その後は考古学的見地から三国志研究がどこまで進んでいるかをお話しなさっていた。私の実力不足でうまく伝えることが出来ないので詳細をここに記すことは諦めるが、文献学と考古学との相互関係によって研究が進んでいるというのは興味深かった。明月記による彗星の発見などが有名な古典と他領域との関わりにも通ずる。国語の各領域についての知識も大事だが、学際的な研究に対する国語の各領域の貢献についての知識も不可欠になってくるだろう。アンテナを張っておきたい。

 

入試漢文―新テストと漢文―(三宅崇広氏)

平成29年度試行調査 問題、正解表、解答用紙等|大学入試センター

 駿台予備校講師の三宅氏がいわゆるプレテストの第5問を扱い、新テストに向けての漢文指導についてお話しされた。以下にその概要を示す。

①リード文・〔注〕・設問にまとめて目を通す。

 注が多ければ多いほど日本語の情報が手に入る。以下に日本語の情報を得るかが漢文においても鍵になる。漢文といえど純粋に漢文を読解する力だけでなく、情報処理の力が求められているのが最近の傾向。

②選択肢選びではなく、自身で答えを出してから選択肢を決める。

 そもそも選択肢を消す作業には時間がかかる。加えて解答者をだまそうとする選択肢を頼ってはいけない。生徒が自分で読み解けるようになることを狙った授業を組み立てる。2択で迷った時読んでいる付近に答えがあることは少ないため、その2択を意識して読み進めるよう指導する。

③見直しの際は自分の選んだ選択肢をまとめて読み、矛盾やつながりを見る。

 全て正しい選択肢を選べている場合、それらをつなげて読むことで、評論ならば要約、小説ならばストーリーが出来上がる。設問や傍線部はその文章の重要なところ乃至作問者が重要だと思っているところにあるはずなので、上記の通りになる。矛盾がみられる場合やつながりが見えない時は、再度選択肢を検討する必要がある。

 この他にも、三宅氏は多くの意味を持つ漢字の使い分け(文法及び語順によって見分ける方法)の指導や比べ読み指導の重要性などをお話しされた。いずれも示唆に富む内容だった。

 やや話がそれるが、センター試験やプレテストにおいても教室における言語活動が想起される問題(平成30年度本試験第1問の問3、前掲プレテスト第5問【文章Ⅱ】)が見受けられる。少々大げさかもしれないがここからも高等学校における授業を変えていこうとする大学入試センターの姿勢が伺える。国語科の不易流行も考えていかなければならない。生意気ながら今後ブログに書きたい読了済みの参考文献を挙げたい。

 

 この本の内容をさらに日本の国語科教育に結び付けて論じることが修士課程における私の課題の一つ。

 

思考を深める探究学習: アクティブ・ラーニングの視点で活用する学校図書館

思考を深める探究学習: アクティブ・ラーニングの視点で活用する学校図書館

 

 この本は前作である

 

中学生・高校生のための探究学習スキルワーク―6プロセスで学ぶ

中学生・高校生のための探究学習スキルワーク―6プロセスで学ぶ

 

 をさらに加筆修正し、探究の必要性や理論面をふんだんに盛りこんでいる充実の作品。教科における副読本ないし中高生に探究指導する際の教科書として扱いたい。

 

ライティングの高大接続?高校・大学で「書くこと」を教える人たちへ

ライティングの高大接続?高校・大学で「書くこと」を教える人たちへ

 

 

 

hama1046.hatenablog.com

 

ここで読まねばと思い、昨日読了した本。「書くこと」の高大接続について自身で行った実験・研究結果等を踏まえて論じた画期的なものでありながら、高校・大学それぞれにさらなる研究の余地を残しているところが魅力である。探究と関わる記述も多く見られる。

 

3日間の講習を終えて

 実に多岐にわたる内容で5000円も惜しくないと思える充実ぶりであった。(貧乏大学院生にとって5000円は大きいのである)修了書に書かれた「天」の字が下の横棒が長い異体字だった(逆にどうやって変換した?)ことは不満だったが、それ以外はおおむね満足であった。繰り返すが全国漢文教育学会が新学習指導要領をはじめとする教育改革の波に対応しようと尽力していることに共感を覚えた。今後の勉強への示唆も得られたため、漢文やその他国語科教育に関わる諸領域への見識を深めるべく研鑽したい。