虎哲の探究

一介の公立中高国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

悪いことは言わないからとにかく「新書を読む」

 研究の解釈に関わるところで絡んだ一般人に対し、専門家の方がこのくらいの新書を読んでから出直せといった発言をしたことから始まったといわれる(親しくしてくださる相互フォローの方から教えて頂いた情報、一応元のツイートは確認済み)新書を巡るツイートブーム。

 奇しくも新書大賞発表の時期というタイムリーっぷり。

 新書大賞|中央公論.jp (chuokoron.jp)

 

初めて新書を読んだのは高2の冬か高3の春、読んだのは『いじめとは何か―教室の問題、社会の問題』。卒業研究の基礎文献として手に取ったのがきっかけである。

 中高6年間脳みそまで日焼けした野球少年(補欠)であったため、通読を課された夏目漱石『こころ』とこの本以外通読したことがないというド阿呆だった。

 もともと中学受験するほど勉強好き、学校図書館大好き小学生だったため読むのは苦でなかった。何よりカラカラに乾いた脳みそに全く知らなかったことがどんどん入っていく新書を読む行為は快感であった。

 空手にのめりこんで本を読むことなど思いが及ばなかった(※教育学部国語専修学生)学部1年を除き、学部時代の読書は大抵新書であった。

 大学進学が決まっていて遊びたいざかり(だが遊べない)高3有志に向け3学期週1回課題を提示するタイプのオンライン講座「新書を読む」を開いている。

 受講前アンケート。

f:id:hama1046:20210212074021j:plain

f:id:hama1046:20210212074028j:plain

 初回スライド。

おせっかいかもと思いながら新書とは?みたいなところから説明。

f:id:hama1046:20210212064110j:plain

f:id:hama1046:20210212064109j:plain

このスライドに合わせてより具体的な探し方を口頭で伝えたが割愛。目次・はじめに・著者について及び中身について見てみるといいよ!くらいのテキトーな感じで伝えたように思う。

 以下が上記の概説を受け、読む新書が決まったら送ってもらうことになっているGooGleフォーム。2週間期間を設けた。本日23:59締切だが現時点で1名からしか回答が得られていない。不安。笑

f:id:hama1046:20210212064114j:plain

f:id:hama1046:20210212064117j:plain

f:id:hama1046:20210212064118j:plain

 

 唯一回答を送ってくれている生徒が選んだのはなんと鈴木孝夫『ことばと文化』。

ことばと文化 (岩波新書)

ことばと文化 (岩波新書)

  • 作者:鈴木 孝夫
  • 発売日: 1973/05/21
  • メディア: 新書
 

 様々な国に住んだ経験から言語と文化の問題に興味を持ったために選んだそう。
 受講者からほとんどリアクションがないので寂しい。そんなわけでクラスルームを通じてガンガン資料(リンク)を投げている。お示ししたい。

新書レーベルから

岩波新書フェア2020「生きのびるための岩波新書」(10/28出庫) - 岩波書店

中公新書の三冊の紹介、大好きな三宅香帆さんの回。

興味の種をまく本たち/三宅香帆|web中公新書

Twitterから

選書キーワードに「ポピュリズム」を挙げている生徒がいたので紹介。

www.tkfd.or.jp

noteもいいと思う。(書く方ははてなブログ一筋だが)

note.com

note.com


 今最も読みたい新書について非常に丁寧にまとめているツイートがあったので拝借。

 

英語独習法 (岩波新書 新赤版 1860)

英語独習法 (岩波新書 新赤版 1860)

 

 

 新書だから絶対よい!!ということはない。(ハズレもある)新書を読まない人間は低俗である、新書くらい読めよなどという分断を生むような発言をするつもりも毛頭ない。ただ新書に魅了された一人として、一般人が知にアクセスする方法として新書は有効な入口の一つだと思うので、こんな記事を世に送り出すのだ。

国語科教育と死について研究紹介(1)

 こちらに向けていろいろと調べ物をしていた。そこで得た情報をメモ。


岡田芳廣(2014)「学校における死についての教育の実態と実践について」

https://core.ac.uk/download/pdf/144440524.pdf

道徳教育の方面からであるが、「学校における死のタブー観」はとても参考になる。

 

池田匡史(2014)

国語科教育とデス・エデュケーションとの距離 : 「死」をめぐる主題単元学習を主な手がかりとして <研究論文> - 広島大学 学術情報リポジトリ (hiroshima-u.ac.jp)

 大村はま記念国語教育の会広島大会で一方的にお見かけした時は

「この人、チャラそうだなぁ〜…」

と思ったけれど、博論(要旨 戦後国語科における単元学習の展開に関する研究 : 主題単元学習の展開と可能性 - 検索結果 - 広島大学 学術情報リポジトリ (hiroshima-u.ac.jp)しか読んでいないが)とかこの論文とかを見るに本当に素晴らしい研究者だと思う。

 名刺を頂いたけれど、彼のものを含め全ての名刺を日本に置いてきてしまった…。

  この論文で引用されていたこの本は初めて知った。

  主題単元学習についてはこの論文がすでにあるため、私は教材の方からアプローチしていきたい。

 主題単元学習は教員の集めた素材ありきのところがあるが、探究とも大いにつながり得ると実践形態だと思う。今後も池田先生の研究はフォローしていきたい。

  論文内で言及のあった井上泰(2011)も実践として非常に興味深い。

学習者の「読みの構え」を育成する国語科授業 : 〈死〉について考える <第2部 教科研究> - 広島大学 学術情報リポジトリ

国語科教育と死について。

2021/02/08 06:44

 

鈴木啓子(2004)

CiNii 論文 -  『ごんぎつね』をどう読むか(<特集>これからの文学教育の地平)

やや合わないところもあるが、この話における茂平の存在やごんと兵十とのラストについて大いに参考になった。

上記の論文で引用されていた

丹藤博文(2002)

CiNii 論文 -  他者を読む : 高校における『ごんぎつね』の授業(<特集>他者との出会い-文学教育の根拠-)

元々『ごんぎつね』を中高で読みなおしたいと思っていたので参考になった。東京都立神代高等学校定時制という国語科教育界の聖地。

丹藤博文(2010)

提案1 <死者>の言葉 : 文学教育の(不)可能性を問う(文学教育の可能性を問う,春期学会 第118回 東京大会) (jst.go.jp)

は提案の要旨のため短いが死者の言葉という点に言及がある。平家物語を検討するのも面白そう。

 

各務めぐみ(2018)「高校国語総合の現代文教材における死生観」

JP_63-19.pdf

はこれから読む予定。

佐藤瑤子(2013)「「死」に着目した、中学校国語教科書掲載作品 : 近現代の文学的文章を中心に」は残念ながらオープンアクセスではないっぽい。

 

 次週までにより多くの教材(「高瀬舟」「城之崎にて」「こころ」など)についての研究を発掘したい。

 

2021年睦月振り返り

  以下の記事で

①外部に発信する文章を3つ以上書く

②本を50冊、うち洋書を5冊以上読む

という2つの目標を掲げた。

hama1046.hatenablog.com

 

この2つの目標について1月の出来具合を振り返りたい。

①外部に発信する文章を3つ以上書く

 書き上げたものはない。一応すべて書きはじめの段階には立った。学期開始から2週間が経ち、ペースもつかめてきたのでボチボチ本腰を入れたい。

 

②本を50冊、うち洋書を5冊以上読む

 まず洋書は

 のイントロダクションを読んだのみ。短いし、興味関心に近いものなので2月中に読み切りたい。

 そのほかについては読書メーター様の恩恵を借りて。読書メーターは一月ごと、一年ごとのまとめが作成できる。その便利な機能を活かした。以下。

2021年1月の読書メーター
読んだ本の数:7冊
読んだページ数:1536ページ
ナイス数:44ナイス

https://bookmeter.com/users/672962/summary/monthly

 

誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門

誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門

  • 作者:内藤 理恵子
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 ■誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門
2021年1冊目にして、2021年ベスト本か?「死についての博物誌」を目指したと著者が「はじめに」で語る通り、死について考え抜いた人を総称して「哲学者」と呼び、彼らの足跡や考え、当時の背景、我々の考え方をはじめ、時にサブカルチャーに至る後世への影響を親しみやすい文体で軽やかに論じる。「哲学者」として難解とされるハイデガーヴィトゲンシュタインが出てくるため構えるが、哲学的素地がなくても理解出来る。イラストやたとえが読者の理解を助けるからだ。この本を読むまでほとんど知らなかったヤスパースの考え方に最も共感。
読了日:01月01日 著者:内藤 理恵子
https://bookmeter.com/books/14150985

 

 

 ■NHK「100分de名著」ブックス 万葉集 (NHK「100分 de 名著」ブックス)
「万の時代の先まで」と願われたであろう(契沖説)萬葉集。令和に至る実に1200年以上も読み継がれるとは。「ますらをぶり」と評価されていると知って分かった気になっていたが、「歌が作られた実質的な時代は」「百三十年間」に及び、その間にも歌風の変化が存在するとのコンセプトは、盲点だっただけに目から鱗だった。第三期の個の時代到来、第四期家持の伝統重視など日本文学史全体の流れとも符合しているのではと思った。ブックス特別章の相聞歌三十選を読んで改めて恋愛・セックス・結婚したいと思った。(特に柿本人麻呂歌集所収の二首)
読了日:01月04日 著者:佐佐木 幸綱
https://bookmeter.com/books/9740354

 

 ■コロナ後の世界を生きる――私たちの提言 (岩波新書 (新赤版 1840))
タイトルこそ「コロナ後の世界を生きる」だが、コロナ後の世界だけでなく日本文化や近代について考えるヒントが詰まっている。隈研吾氏の「ハコからの脱却」、出口治明氏の「過去三度のパンデミックは全てグローバリゼーションを加速し、国際協調を生み出している」、藻谷浩介氏による日本がコロナ後に伝統回帰の方向に向かうのではないかという指摘等は目から鱗だった。また、緊急時に対応するのではなく平時から備えよということは随所に感じられた。ヤマザキマリ氏が紹介している過去の疫病から学ぶ教育は備えの一つになるのではないかと思った。
読了日:01月06日 著者:村上 陽一郎
https://bookmeter.com/books/16115096

 

 ■NHK「100分de名著」ブックス 紫式部 源氏物語 (NHK「100分 de名著」ブックス)
様々な切り口があると思われる源氏を三部構成とそれぞれの主題について焦点化し分かりやすく解説している。ブックス特別章「歌で読み解く源氏物語」は和歌の言葉から内容に踏み込むアプローチ。「「古典」とは絶えず新しい意味を生成するテキスト」(130頁)という三田村先生の言葉に共感しつつも、「若紫の君」でその意味での「古典」の授業を行えなかった我が身を省みた。かくいう私は、中高時代第一部のものしか読まず、第二部・第三部は受験勉強を通して出合った。とりあえず自分の年齢に近い「須磨」まで通して読みたいという想いを抱いた。
読了日:01月08日 著者:三田村 雅子
https://bookmeter.com/books/10136958

 

人と思想 34 サルトル

人と思想 34 サルトル

 

 ■人と思想 34 サルトル
サルトルの著作と格闘した経験はないが、教科書的な知識でサルトルが好きだなと思っているので読んだ。著作の引用を含んだ伝記として読んでも面白い。サルトルの思想だけでなく、著者がサルトルを含むヘーゲルマルクスを「三つの柱」としており、彼らの思想との中のサルトルの思想、及びその特質と限界をしっかりと明記していたため読みやすかった。ただ著作の後半、サルトルによる「全体化」の導入より後あたりから置いてきぼりにされた感あり。全体には関係ないが、著者による書物の考え方を表明した一文やサルトルの生涯をまとめた一文は好み。
読了日:01月13日 著者:村上 嘉隆
https://bookmeter.com/books/8286660

 

教室に魅力を (人と教育双書)

教室に魅力を (人と教育双書)

  • 作者:大村 はま
  • 発売日: 2005/09/01
  • メディア: 単行本
 

 ■教室に魅力を
勤務校の本棚にあった。学部時代に『教えるということ』を読んでいたので、大村はまの言葉の持つ厳しさにはある程度耐性が出来ていたが、それでも出来ていないことばかりで自戒させられる。今回は「子どもに任せる形の授業のときに、教師がどれくらい働いているか」教室に魅力を持たせる上で周囲との比較に気持ちが及ぶ「隙」がないほど、「ほんとうに、おもしろいことを、一生懸命やっている」ようにすることが重要だというが、それがいかに難しいかは推して知るべし。生徒に成長を実感させる、生徒や時機を捉えて単元を作ることに如くはないのだ。
読了日:01月16日 著者:大村 はま
https://bookmeter.com/books/948240

 

ミシェル・フ-コ- (講談社現代新書)

ミシェル・フ-コ- (講談社現代新書)

  • 作者:内田 隆三
  • 発売日: 1990/03/16
  • メディア: 新書
 

 ■ミシェル・フーコー (講談社現代新書)
現在高3向けに「新書を読む」という選択講座を担当しており、自分も新書を読みたい!と学校図書館で漁り手に取った一冊。手に取ったのは今まで読んできた本の中に頻繁に登場するフーコーという哲学者について知りたいと思ったためである。服従の主体、言説というタームや「フーコーが問題にするのは西欧のエピスターメーの歴史であ」(49頁)り、その実践の延長としてパノプティコンや告白の分析があったことを知ることができた。今後はフーコーの著作の邦訳(積んでいる慎改先生著作群)やフーコーが影響を受けたニーチェの著作を読んでみたい。
読了日:01月30日 著者:内田 隆三
https://bookmeter.com/books/490082

 

 睦月はストレッチを2日を除き毎日出来た、風邪ひかなかったくらいしか褒めるべき点が見当たらない。強いて言えばなかなか良い本を読んでいる。笑

 如月は書くことにもう少し向き合いたい。

 

SPECIAL THANKS
読書メーター
https://bookmeter.com/

 ストレッチは風呂上りに以下の動画の内容を行った。


【全身がラクになる】一日の疲れを消し去る極上12分ストレッチ!【お風呂上がりに #365日継続チャレンジ】

 

太宰治が、勉強の素晴らしさについて教えてくれました。

 きっかけはこのツイート。

太宰治 正義と微笑 (aozora.gr.jp)

作品序盤の「四月十七日。土曜日。」の黒田先生のセリフである。

 飛躍があり、わかるようでいてわからない。「カルチベート」された末にこの飛躍が各々の知識・経験で埋まるということなのだろう。こういう生涯にわたり生徒に引っかかる残り続ける言葉を伝えられる「カルチベート」された教員になりたいと思う。

2021年大学入学共通テスト国語出典まとめ【第2日程も追加】

 Twitterによる情報収集によるもので、正確に問題を見て逐一確認したわけではないがある程度の妥当性があると考えられるためまとめておきたい。

 

出典に関するツイート

 

全体講評

 

大問1評論

 出典はこちら。

江戸の妖怪革命 (角川ソフィア文庫)

江戸の妖怪革命 (角川ソフィア文庫)

  • 作者:香川 雅信
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫
 

  なお、この文章は2017年北海道大学の入試問題にも扱われていたそう。

国公立大学分析④北海道大学<後編>(2016~2020)|武川 晋也|note

 学部時代からの友人が以下の動画の存在を教えてくれた。

www.youtube.com

 

 

設問の一部に以下の作品が扱われていたようだ。

歯車

歯車

 

 芥川龍之介 歯車 (aozora.gr.jp)

 

 

 大問2 小説

 

 設問の一部に宮島新三郎「師走文壇の一瞥」という以下に収められている文章が扱われていたようだ。

 

 新聞集成大正編年史.大正7年度版 下/1977.10 (ndl.go.jp)

 

 

 

 大問3 古文

 

 意外にも有名出典からの出題。

大鏡・栄花物語 (日本の古典をよむ 11)

大鏡・栄花物語 (日本の古典をよむ 11)

  • 発売日: 2008/11/25
  • メディア: 単行本
 

 「長家の妻が他界したあとの場面」だそう。

 

 

大問4 漢文

Ⅰ欧陽脩『欧陽文忠公集』 Ⅱ『韓非子』だそう。

 

 

 

 実用文の出題がなく、ほっとする先生方の声が聞こえてきそうである…。

 しかし複数の文章を絡めた出題は健在で、一つの文章を精読するだけでなく、複数の文章を重ねて読む経験の重要性は示されたように思う。問題が手に入ったら、授業者の立場で分析してみたい。

【1/30追記】

 第2日程も「全体的に過去のセンター試験の設問形式が目立つ」との講評があった。大学入試大学入学共通テスト 問題分析詳細 | 代々木ゼミナール (yozemi.ac.jp)

 

第1問評論

 

 

 第2問 小説

 

サキの忘れ物

サキの忘れ物

  • 作者:記久子, 津村
  • 発売日: 2020/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 第3問 古文

 

恋路ゆかしき大将、山路の露 (中世王朝物語全集)

恋路ゆかしき大将、山路の露 (中世王朝物語全集)

  • 発売日: 2004/07/01
  • メディア: 単行本
 

 

 

第4問 漢文

曾鞏『墨池記』

そろそろまた日本漢文出るんじゃないか予想、外す。笑

 

母校東大附属のイベント(2021年2月)

東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)主催シンポジウム 主体的・探究的な学びの体験がもたらす高大接続・社会への貢献ー東大附属中等教育学校での学びの長期的効果ー
2/7(日)14時から16時半、Zoom開催でなんと無料。詳細は以下。

イベント | 学校教育高度化・効果検証センター|東京大学大学院教育学研究科附属 (u-tokyo.ac.jp)

 おすすめは何といっても「附属学校での主体的・探究的な学びの体験がもたらす高大接続・社会への語り」。パネル調査では見えてこない具体の部分を卒業生の語りによって見ていくことが出来る。同級生が二人登壇予定。

申し込みは以下から。

2020年度学校教育高度化・効果検証センター主催シンポジウム【参加申込】 (google.com)

定員は300人だがもうすぐ埋まりそうということで急遽500人に定員を拡大するとのこと。

締切は1/31

 

以下は1/13に母校ホームページで公開されたばかりのホットな情報。

第 22 回東京大学教育学部附属中等教育学校公開研究会

2/13(土)午前中、Zoom開催でなんと無料。詳細は以下。

20210213koukaiken.pdf (u-tokyo.ac.jp)

前述のイベントに参加して「附属学校での主体的・探究的な学び」って何なのさ!となった人向け。今回授業の公開はないが、実践をベースにした研究協議でその一端が見えてくるだろう。

申し込みは以下から

第22回 東京大学教育学部附属学校公開研究会 (google.com)

締切は1/25

 

 アイキャッチ

メタ言語能力を育てる文法授業—英語科と国語科の連携

メタ言語能力を育てる文法授業—英語科と国語科の連携

  • 発売日: 2019/08/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

第三章で扱われている実践の対象生徒は私たち63回生である。(ドヤ)

編著者である秋田先生・斎藤先生と二週連続オンラインで対面になる。参加人数が多いのでウェビナーになって一方的に話を聞くだけになりそうだが。

 

遠く離れていても母校のことを思う。

内藤理恵子『誰も教えてくれなかった死の哲学入門』と私の死生観について

  パンデミックによって日々の感染者、死亡者の数を目にし、耳にする機会が増えた。また、アール・ノート(『コロナ時代の僕ら』参照)を限りなく0に近づけるべく不要不急の外出を控えて一人で過ごす時間が増えた。

コロナの時代の僕ら

コロナの時代の僕ら

 

  この二つの要因によって我々は必然的に死について考えているのではないかと思う。

 

  そんな背景もあり手に取った #買ってよかった2020 としてタイトルの本を紹介したい。

誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門

誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門

  • 作者:内藤 理恵子
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門 虎哲さんの感想 - 読書メーター (bookmeter.com)

 

2021年1冊目にして、2021年ベスト本か?「死についての博物誌」を目指したと著者が「はじめに」で語る通り、死について考え抜いた人を総称して「哲学者」と呼び、彼らの足跡や考え、当時の背景、我々の考え方をはじめ、時にサブカルチャーに至る後世への影響を親しみやすい文体で軽やかに論じる。「哲学者」として難解とされるハイデガーヴィトゲンシュタインが出てくるため構えるが、哲学的素地がなくても理解出来る。イラストやたとえが読者の理解を助けるからだ。この本を読むまでほとんど知らなかったヤスパースの考え方に最も共感。

 

 「我々は必然的に死について考えている」と述べた。そんな状況において著者は哲学教育の不在を指摘する。

 

 なぜ哲学なのか?哲学は根本原理、もしくは原理の近似値を描くことのできる唯一の学問ですが、日本では教育現場でもあまりあまり取り上げられることはなく、せいぜい中学・高校の倫理社会の授業くらいではないでしょうか。あとは、大学の教養課程で講義に出るか、数少ない哲学科のある大学に進学するか、独学で哲学書を読むか……。

 哲学的な思考の基礎がないまま、不安や苦しみの解消を他者に依存に依存し、その欲求が満たされないと嘆いているのが、現代の日本の「死」に関する思想状況であると思います。さらには現代日本の異様な自殺率の高さ、特に世界的に見ても特異な自殺率の高さは、哲学教育の不在となんらかの関係があるとも思います。

 (「はじめに」より引用、なお「倫理社会」は原文ママ

 

 著者内藤先生に頂いたこの言葉について若干の違和感があったが、先生がこの本を届けたい人の中に教育者がいたのではないかということに気がついた。

 私は一介の国語科教員であり、生とともに真正面から哲学に取り組むような殊勝さはない。ただ授業を通じ、生徒が死に触れるのは国語科なのではないかと思う。教材を列挙すれば、新美南吉「ごんぎつね」・井上ひさし「握手」・森鴎外高瀬舟」・志賀直哉「城の崎にて」・夏目漱石「こころ」がそれにあたる。

  下の本は生徒が言葉として死に触れる国語科としての在り方に大きな示唆を与えるのではないかと期待している。

  

 また国語科と哲学教育については元開成中・高、現筑波大学附属駒場中・高の森先生による論考がある。私もこのような方向の国語科教育を探究したいと思っている。

No Tiltle (chiba-u.jp)

 私も先生の語る多くの日本人にもれず「哲学的な思考の基礎がな」く、高校時代の現代社会(今考えても優れた先生であったが、政治経済の方面に強い印象があり、倫理方面の授業の記憶はない)や「大学の教養課程」で履修して「倫理学概説」、及びその後直接哲学書を読むでもなく読んでいて心地のいい入門書の類いを数冊読む程度である。

  「哲学的素地がなくても理解出来る」という点については内藤先生が書いた以下の記事を見て頂ければ理解できると思う。

『誰も教えてくれなかった「死」の哲学入門』幻のあとがき|日本実業出版社|note

 実際、この本にはあとがきがなく、あたかもこの本がサルトルのいうところの「偶然」の死を迎え、突然死について考える終わりなき哲学の道へ読者を放り出すような印象を受ける。

 中身については読んで頂くに如くはないが、私が最も共感したヤスパースの考えを紹介したい。「人間の死後世界は「神の領域である」」としつつも、哲学することでその途方もない距離に少しずつ近づくというものだ。内藤先生はそのさまを「鳥人間コンテスト」にたとえている。ぜひ確認されたい。

 またヤスパースは神の存在証明として「暗号」という興味深い概念を提示している。

 たとえば、昨日こんなことがあった。

 『誰も教えてくれなかった死の哲学入門』を読み終えてTwitterを開いた時、下のツイートが目に飛び込んだ。

 この出来事から私はこの本を読んだことが人生の一つの契機であると伝える神の「暗号」を読みとるのだ。←

 

私の死生観について

 私はこれまでこの本の扱う哲学や宗教からよりも、言葉や文学から影響を受けてきた。(無論後者に前者の影響はあるが)

 「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」(『十訓抄』)という言葉や、ディズニー映画『リメンバー・ミー』に描かれているような「人は二度死ぬ」という死生観である。

  端的に言えば、肉体的にも精神的にも死の克服は不可能であるとし、たとえ肉体がなくなっても、何らかの形で少しでも生きた証を残すことが自分の死への未練を軽減させることにつながるというものである。

 ハイデガーの死生観に、死後の視点を加えたものだ。サルトルのいう「偶然」に支配された死をあえて視野の外に置いている感がある。「いつ死ぬか」は語りえぬ神の領域だからだ。

 このブログで本を書きたいという願望を述べているのもこの死生観によるところが大きいのではないかと思う。

 ただしいうまでもなく世に問うに値する問題意識がない限り、本を書いてもしょうがない。私の好きな著者は問題意識がしっかりしている。本を書くこと自体を目的とせず、問題意識をしっかりと育てていく必要がある。それがじわじわと縁を繋ぎ、結果として出版にこぎつけるというのが1番ではないかと思う。

 このブログもそうした口コミの一つになれば幸いである。