虎哲の探究

一介の公立中高国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

大村はま記念国語教育の会平成30年度記念大会の振り返り(実践発表編)

 大村はま記念国語教育の会平成30年度記念大会が広島大学教育学部附属中・高等学校で行われた。優れた教師や生徒を輩出してきた伝統校である。また、広島市大村はまも度々訪れたゆかりの地であるという。そうした場で行われる研究会に参加できたことは国語教師の卵としても非常に価値あることと思う。 

実に研究会日和でした。

遅くなり申し訳ないです。

 

本を読んで語り合う授業を作る国語科教育実践(東広島市立向陽中学校居川あゆ子先生)

 まず、居川先生は発表の前に何故本を読んで語り合う授業をつくるのかの理由として生徒が望むからであると説明し、このような取り組みを三年間継続したことは全国学力・学習状況調査(特にB問題)においても有効(4技能は全国のスコアより10ポイント以上上回っている)だったことを示した。生徒が本を読んで語り合う仕組みを作った単元は、よく読み書き話し聞くものであるためこうした能力を伸ばすのに有効であると感じられた。

 第1学年重松清『タオル』を使った実践では授業前に行ったアンケートの結果から、生徒は「他と交流して,自分の意見を広げたり深めたりするという意識が不十分」であるとして他者と話し合う意識及び読むことCオの定着を目標とした単元を展開した。

  『タオル』を読む前に学習の枠組みを作るため、『こうえんで…4つのお話』という絵本を活用した学習を行っている。

こうえんで…4つのお話 (児童図書館・絵本の部屋)

こうえんで…4つのお話 (児童図書館・絵本の部屋)

 

  作品の『4つのお話から成っており、4人の主人公が同じ出来事を自分の感じたように語っている。物語の構成・視点・描写等を考えるのに適した教材である。情景が人物の心情を表しており、情景描写から心情を考えるのにも適している』という特徴を生かし、グループ活動を行っている。このグループ活動では「課題1 作者の工夫を見つけましょう」「課題2 作者はあなたに何を伝えようとしていますか?」に取り組む。

 このグループ活動で使用するワークシートは、まず課題に対する自分の考えとその根拠を書かせるようになっていること(話し合いに参加できる土台作り)、友達の考えを記録する枠があること、再度自分の考えを記入するところとふりかえり(与えられた項目で自分の活動を3段階評価する)、授業の感想(自由記述)があるという点で素晴らしい。話し合って終わりにさせない工夫が凝縮されている。

 「13の視点」という様々な観点での問いを示したワークシートを配布し、それについて考えさせたうえで、人物関係図やあらすじを書くことで『タオル』の内容をざっくり捉えさせる。

 その後「13の視点」から生徒は選択した課題を基に組んだグループで10分ほど考えを交流する。その前後にはやはり個人思考の時間が確保されている。ワークシートも最初に書いた自分の考えが友達の意見によってどのように変化した言ったかが見取れる構成になっている。

 グループ交流の後に行う「あゆ子の部屋」が効果的だと思った。「あゆ子の部屋」は察しの付く通り徹子の部屋のパロディである。司会を担う授業者を交えたグループでの話し合いでその他の生徒はそれを見学する。①グループでの活動報告②司会が報告を基に質問③全体での交流という具合で進行し、それを全グループに対して行う。個々のグループの学びが全体に還元されかつユニークな活動である。

 この「あゆ子の部屋」をすべてのグループに対して行った後に選択課題の答えを600字程度で記述させる。今回の発表で紹介されていた生徒の解答は最初の答えとその根拠、グループ学習を経た考えの変容、現在の答えとその根拠を丁寧にまとめることが出来ていた。

 評価テストでは8割近い生徒がB評価以上であると言え、意識調査において本の内容を話すもしくは話すことが好きだという生徒の割合が授業前のアンケートと比べ倍増していた。こうした実践の積み重ねが「仲間を求める人」になることへつながるのだと思った。

 居川先生による同一教材での第3学年の実践はこちらの論文にも取り上げられている。

http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/3/39723/20160414104831980637/CSNERP_14_43.pdf

 しかし、当該論文と発表資料の学習の流れがやや異なっているので資料の方のポイントや学習の流れについても触れる。

 この単元の良さの一つに学校司書との連携が挙げられる。学校司書が課題の設定や情報の収集整理の場面で授業者とともにアドバイスを行うことでより専門的かつきめ細やかな指導が実現する。

 

hama1046.hatenablog.com

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  授業での学校司書との協力の重要性は上の記事においても取り上げており、国語科と探究とのかかわりの深い関心事の一つだ。

 発表資料を基に学習の流れを紹介する。

【1次】教材文「冥王星が『準惑星』になったわけ」や資料(ネットニュース記事や教材文筆者による別の文章)に書かれていることから「もっと知ったり深く考えたりしてみたいことという視点で学習課題を設定する。学習の見通しを持つ。教材文の内容を整理する。

【2次】図書やweb資料を活用し、必要な情報を収集・選択し、それらを引用してカードにまとめる。選択した情報を整理・分析し、課題の答えをワークシートにまとめる。

【3次】課題に対する中間発表を行う。発表を聞いて疑問に思ったことを質問する。

【4次】指摘があった事柄について情報の再収集を行い、新たな情報を整理・分析し、課題の答えを完成させる。

【5次】完成した文章の交流を行う。知識を広げたり自分の考えを深めたりすることはできたか、次に読んでみたい本を考え読書計画をつくることができたか、学習した内容を生活に生かす場面を考えることといった振り返りを行う。

 読書のジャンルに偏りがある・学習センターとしての図書館の機能を主体的に活用していない・課題解決のために様々な本や文章を読んで、知識を広げたり、自分の考えを再構築することに課題があるといった問題意識から始まった単元で、図書館において情報を得るために様々な本に手を伸ばすような情報読書が行え、知識の拡充考えの再構成の手段としての読書の良さを実感できる良さがある。説明的文章はどうしても読んで分かった気になるものであり、そこから問いを立て探究するような学習とはなじみにくい印象があった。本実践は説明的文章を起点にした国語科授業における探究の可能性を示している。

 その他様々な本を読んで語り合う実践の締めくくりに作る「中学生のうちに読みたい100のお話」という文集は他の学年の本を読んで語り合う授業の起爆剤になったそうである。私もこうした優れた実践を行い、生涯読書に親しむ人へ育てていければなと思った。

 

小説「舞姫」冒頭部の映像化(大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎広島大学大学院教育学研究科博士後期 松岡礼子先生)

 

 

 この中の山本隆春論文で提案されている「三つの位相」に応じた「舞姫」の読みを基に本単元は構想されているそうだ。https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokugoka/76/0/76_KJ00009554713/_pdf/-char/ja

http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/4/41622/20170120112447443720/BullGradSchEducHU-Part2_65_139.pdf

 松岡先生はこれまでも映像と読解について研究・実践なさっている。今回は表題の通り「舞姫」冒頭部をiPadの簡易動画作成ソフトiMovieを活用して映像化している。文章を映像化することは自ずとそれを解釈する過程が生じ、それによって読みが深まるという構造を持っていると気付かされた。

 まずグループ音読でテキストに触れ、映像化する「舞姫」冒頭部の絵コンテ作成、動画制作、「私の一文」という「舞姫」における文の引用もしくはテーマを基にした作文を提出させ文集を作成、最後に篠田正浩監督(1989)「舞姫」を見て鑑賞文を書くという単元の流れだ。

  成果物の様子からも映像化によって読みの深まりが明確に見て取れる実践だった。またそれ以上に、出来ない生徒に注目するのではなく、出来る生徒の学習過程を追いどのように伸ばすことが出来たかと思い悩んでいる様子が印象的だった。

 

 過去二回の受賞者はよく研究会でご指導いただく、大学及び大学院の先輩だった。今回の受賞で地方の優れた実践者にもスポットライトが当たることを期待したい。新聞を活用した平和学習の実践だそうだ。審査講評で先生が頑張り過ぎるのではなく、生徒に活動をゆだねてもよいのではという言葉が印象的だった。第10回までに自分も受賞できる実践を展開できる力を付けたい。ひそかな野望である。

 

 長くなりすぎたので理論研究及び講演の振り返りについては後日に回したい。