虎哲の探究

一介の公立中高国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

【予習】甲斐先生の国語教室における探究的要素

https://twitter.com/Hamaten61/status/1051704381379293185

 30日から赤坂中学校にて授業見学させて頂く。甲斐理恵子先生は今年の日本国語教育学会全国大会にて筑波大学附属中学校2年生を対象とした公開授業を行っていたことが記憶に新しいだろう。ご存知の方も多いと思いが、まずは先生の評価や人柄について簡単に紹介したい。

  甲斐先生はよく大村はまの流れをくむというような紹介がなされるが、お話する中で先生はありもしないことをよくも…とあきれ顔で否定なさった。

 https://twitter.com/Hamaten61/status/1051753722454278145

 先生が登壇されている研究会は大体大村はまの冠がついていたりするので以下の評価も頷ける。一般的なものであろう。

https://twitter.com/vivencia82/status/1052108174474469376

 先生は大村はま国語教室を読んで学び、とことん教室で生徒と向き合い実践を積み重ねたプロフェッショナルと呼ぶべき一教師である。なお「プロフェッショナル」という言葉はあすこま先生の発言から拝借した。ぴったりの言葉を与えられる人になりたいと思う今日この頃。

 

プロフェッショナル宣言 (星海社新書)

プロフェッショナル宣言 (星海社新書)

 

 

 国語教育界隈ではあまり評判がよくない印象を受ける齋藤孝先生。そんな齋藤先生の『プロフェッショナル宣言』を読んだのが2年前。時の流れの速さを感じる。私は齋藤孝先生の著作結構好きなのだが。別の著作で書いていたことと同じことが本に書かれていたり、最近はメディアの露出に忙しかったりするのがファンとしては残念である。彼が国語教育に一層貢献することがあればかなり面白いのにと思うのであるが…。

 

 話を本題に戻そう。

https://twitter.com/Hamaten61/status/1051755603192733697

 甲斐先生は修士課程を修了後、東京都公立中学校に現在に至るまで勤められている。自分としてはやはり修士課程の意義というものがここでも見受けられるなと思うと同時にやはり修士課程修了にはそれだけ教師としての価値が求められるのではと改めてプレッシャーを感じた。単元についてだけでなく教師としての振る舞いについても先生を見て学び取りたい。

 

 以降は私の手元にある2つの単元資料をもとに甲斐先生の国語教室における探究的要素を紹介したい。

 

スピーチ大会―「質問力を考える」(月刊国語教育研究2012年9月号より)

 

 この単元は協働する力の中でも核となる「質問力を考えるという意識化」に焦点を当てたものである。質問力は相手の探究に協力するような協働的に探究する態度を育む基盤となる。探究を行っている学校は探究のスタートと成果物提出との間に中間発表を設けることが多く(ex.玉川学園「学びの技」におけるポスターセッションや大学や院での研究活動)他者からの質問が探究を前に進めるということを身をもって実感している。

 

質問力 ちくま文庫(さ-28-1)

質問力 ちくま文庫(さ-28-1)

 

  甲斐先生は上記の本を国語教室通信で紹介し「単元の種まき」を行った。スピーチ大会と銘打っているが、スピーチの質ではなくその後の質問に力点を置くことを1時間目で確認している。「質問そのものを吟味する授業なので、質問されても答えなくていいと伝える」ほどの徹底ぶりである。この姿勢に目標達成のために指導内容盛り込み過ぎない授業の典型が見て取れる。以下に「学習の流れ」を引用する。

 

一、スピーチの内容を考える・・・・・・・・・・一時間目

 ①夏の体験を振り返る

 ②内容についての発表(何について話すの?)

二、スピーチ内容を形にする・・・・・・・・・・二時間目

 ▶原稿を書く(三百字程度)

 ▶練習する

三、練習・・・・・・・・・・・・・・・・・三時間目

 ①先生のスピーチ

 ②質問

 ③スピーチ順番決め・質問用紙の説明・準備

四、スピーチ大会・・・・・・・・・・・・・四・五時間目

 ①スピーチ(話す・聞く)

 ②質問

 ③質問に対する先生の講評

五、まとめ・講評・学習のふりかえり・・・・・・六時間目

【目標】

■質問の種類について考える

■いい質問とはどのようなものかを知る

■話題に応じていい質問をする

 

  手段であるスピーチはサクサク準備させ、重要な質問を考えるための工夫をしっかりととっている。肝になるのは三時間目以降である。まず三時間目に先生のスピーチとそれに対する生徒の質問を行い、四・五時間目の活動のシミュレーションを行ったのが非常に良いと感じた。四・五時間目はスピーチ→質問用紙の記入→質問発表→先生の講評と進んでいく。この方法によって多くの質問やそれに対する先生の講評から学ぶことのできる。六時間目で言語活動の中の学習をしっかりと振り返り、価値づける。他の単元や日常生活での活用を経てさらに質問力を高めていくだろう。なお、先生は当該単元を「インタビューの力をつけるためのスタートと地点」に立たせたものと振り返っている。

 

単元「学ぶ」ということ再考(月刊国語教育研究2013年7月号より)

 

 この単元は何らかの目的を達成しようとして、情報を得るための読書である「情報読書」を取り入れたものである。対象学年は中3、実施時期は1月であり、中学校での学習の集大成かつ高校における学びへの橋渡しとなる単元だ。単元は内田樹氏の二つの文章から情報収集・整理や考えの形成を行い、それを交流して文章を書くことに収斂させるという構成になっている。以下にプリント「学習の流れ」を引用する。

 

一、「負け方を習得する」内田樹を読む・・・・・一時間目

 ▶定義づけながら筆者の価値観を読み取る

 ▶要旨をまとめる

二、「学ぶ力」内田樹を読む・・・・・・・・・・二時間目

 ▶定義づけながら筆者の価値観を読み取る

 ▶要旨をまとめる

三、要旨のまとめ~友達の文章を読む・・・・・・三時間目

四、話題・問いを出し合う

   話題・問いを吟味する

五、話し合い(読書会part2)のための発言メモ

六、話し合い「学ぶ」ということ再考・・・・・・四時間目

七、文章を書く(200字)「学ぶ」ということ再考

 ▶書き出しを考える

 ▶文章を書く・・・・・・・・・・・・・・・・五時間目

八、まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・六時間目

 ▶友達の文章を読む

 ▶講評・学習の振り返り

 【目標】

■筆者の価値観(ものの見方考え方)を「定義づけ」という方法で読み取る

■非文学の文章を読んで、語り合うことの楽しさを知る

■話し合いで積極的に発言し、文章に書いて、自分の考えを深める

 

この単元を考えるうえで単元間の有機的なつながりは看過できない。甲斐先生も「関係の深い単元」を挙げている。特に評論を「定義づけ」して読む・評論を語る力をつけることを意図した「シンポジウム「聴くということ」」や問いを立てる力や話題を吟味する力の育成を意図した「読書会のために~高瀬舟~」はこの単元を行う際に不可欠なものといえる。これらの単元についてお話が伺えたら改めて紹介したい。

 読書会の意義については以下の記事にも書いている。

hama1046.hatenablog.com

  読書会は学習者の国語の力を総動員させるような良さがあり、学習者は本を読んで語り合う楽しさを知るとともに一段階力を伸ばせると確信した。

 

 少々長くなってしまったため一度ここまでで投稿する。今後大村はま記念国語教育の会大会について書き、それを書き終えたら甲斐先生の授業見学で学んだことや南部国語の会主催国語教育研究会で発表なさった単元「フクシマを持ち寄ろう」(素晴らし過ぎて感動のあまりほぼ認知されていない状況にも関わらず声をかけにいってしまった)日本国語教育学会全国大会で実践された単元「批評の心が生まれたとき」の探究的要素についても書きたい。なお、後者の単元については

 

hama1046.hatenablog.com

 にも書いている。飛び込み授業でここまで出来るとは!と驚くばかり。詳細は月刊国語教育研究の11月号にも掲載されるので併せて参照されたい。