虎哲の探究

一介の公立中高国語科教員の戯言。未熟者による日々研鑽の記録。

【書評】古田尚行『国語の授業の作り方 はじめての授業マニュアル』

久々に丸一冊本を読みきった。

 

国語の授業の作り方: はじめての授業マニュアル

国語の授業の作り方: はじめての授業マニュアル

 

 「読みきった」というのは内容をしっかりと理解したという訳ではなく、ひとまず読了したということである。普段は情報収集のための読書で一部始終読みきることは稀である。内容をすべてしっかりと理解するのは現場に出てからなのだろう。現場に出てからも著者ほど深く物事を考えられるのだろうか。折に触れて再読しなければ。

 

著者、古田尚行先生との出会い

古田尚行先生を知ったのは、「『古今集』と『伊勢物語』の想像力―「二条后物語」を軸にした授業―」がきっかけだったように記憶している。当時『伊勢物語』を研究していた関係でこの論文の存在を知り(アクセスはできなかった・・・)、『リポート笠間』60号の原稿、ブログ、twitterと辿って行ったのだった。言わば追っかけである。

勤務校の公開研究会にもお邪魔し、私が古田先生を知るきっかけとなった論文を所収する『国語科教育研究紀要』も直接頂けた。お仕事の関係もあり、あまりお話出来なかったのは残念だったが、そのわずかな会話の中に古田先生の教育観の一端が伺えた。

(公開授業後)

古田先生「授業はどうでしたか?」

私「緻密に準備されていて、生徒の思考が促されていると感じました。良い授業を見させてもらいました。」

古田先生「ただ少し…彼(当該授業の授業者)は喋り過ぎですね…。」

ボイスレコーダーを用意していたわけではないので、曖昧な記憶であることをご承知いただきたい。ただ、この言葉で先ほどの授業の主役は誰だったかと考えた時にその答えは授業者であると気づかされた。

 

私の感じた本の良さ

何事においても良さを語るのは難しい。それは文学作品の主題はこれ!と言われた時に生じる作品の矮小化と似たことが起こりうるからだ。私の語ることは無数にある良さの一隅を照らしたものに過ぎないことを予めご理解いただきたい。

まず、特色としてあげられるのは引用・参考文献や文献ガイドの多さ・多様さであろう。同じような本に今まで出会えていないので、一概に特色と言い難いがこの著作を読むと国語教育(ここではあえて「国語教育」としている。参考p.149-153)様々な分野に関心が及ぶ。文学や古典をはじめ、他者や特別支援、母語などなど実に複雑な要素が絡んでいるのが国語教育なのだと気づかされる。本を読んで国語教育について勉強したいが、何から読み始めれば良いか分からない!という方にお勧めの本である。(読みたい本が多くなりすぎている私にとってこの本は沼です笑)注だけでp.273-317。

安易なところに収斂せず、拡散していく良さがあるといえそうである。

次に、論が抽象的過ぎず、面白い具体例が多数あることを挙げたい。全体の構成で言えば、6章 事例篇が全体に与える影響のようなものが、どの文にもみられるということである。おすすめは、p.123(■聴き手をどう意識するのか)における具体例である。この本に向かう行為は間違いなく「読む」なのであるが、具体(古田先生と他者とのやり取りや教室の風景)が見えるのである。何を言っているのだろうかと思ってこのブログを見ている方はぜひ読んでみて頂きたい。読んだうえで何を言っているのだと思った方がいた場合に関しては申し訳ないと言うより他はない。

 

最後に

この本を読んで二つの夢が出来た。一つ目はこの本で読書会を開くことである。この本の良さの一つに拡散性があると思う。この本を読んでどこが琴線に触れたか、どのようなことを考えたのかについて交流したいのである。二つ目はこの本のような本を書き上げられるほどに自分が実践を積み上げることである。私の指導教員はよく行ったことを形にせよとおっしゃる。形にすることで自分が再読でき、また読者がいれば何かの助けにもなるからだと理解している。著者プロフィールによれば古田先生は修士課程を修了して10年目でこの本を書いている。10年目に私もこれほどの積み上げができるよう今から研鑽を積みたい。